大判例

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岡山地方裁判所 昭和45年(わ)303号 判決

一、本店所在地

岡山市本町九番一六号

法人の名称

中国観光株式会社

代表者の住所

同市本町九番七号

代表者

吉本忠男

二、本籍

同市上西川二〇七

住居

同市本町九番七号

会社役員

吉本忠男

大正一五年六月二四日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官田井正己出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人中国観光株式会社を罰金二〇〇万円に、被告人吉本忠男を懲役四月に各処する。

被告人吉本忠男に対し、本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人中国観光株式会社は、岡山市本町九番一六号に本店を置き、キヤバレー等の風俗営業を営むもの、被告人吉本忠男は同会社の代表取締役としてその業務全般を統轄しているものであるが、被告人吉本忠男は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、同会社経理部長小山岩太と共謀のうえ、

第一  昭和四一年四月一日より同四二年三月三一日までの事業年度における同会社の所得額は一八、三三三、二七一円、これに対する法人税額は六、二〇六、五〇〇円であつたにもかかわらず、同会社の経営するキヤバレー「うるわし」及び「福山うるわし」の売上の一部を除外して公表帳簿に計上せず、これによる簿外利益を偽名・無記名で銀行預金し、或いは簿外経費の支出に充当するなどして所得の一部を秘匿したうえ、昭和四二年五月三一日所轄の岡山税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、二〇〇、三八七円で、これに対する法人税額が三三六、〇八〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により前記の正規の法人税額との差額である五、八七〇、四二〇円を逋脱し、

第二  昭和四二年四月一日より、同四三年三月三一日までの事業年度における同会社の所得金額は二〇、三八〇、四七三円、これに対する法人税額は六、九二三、〇〇〇円であつたにもかかわらず、同会社の経営する前記各キヤバレー及びキヤバレー「岡山うるわし」の売上の一部を除外し、前記同様方法により所得の一部を秘匿したうえ、昭和四三年五月三一日前同税務署において、同税署長に対し、所得金額が欠損三、一〇四、七八二円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により前記の正規の法人税六、九二三、〇〇〇円を逋脱し

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一、小山岩太の大蔵事務官に対する質問顛末書八通

一、小山岩太の検察官に対する供述調書二通

一、平松義弘の検察官に対する供述調書

一、魚井米夫の大蔵事務官に対する質問顛末書四通

一、魚井米夫の検察官に対する供述調書

一、河内義夫の大蔵事務官に対する質問顛末書

一、中島孝雄の大蔵事務官に対する質問顛末書三通及び検察官に対する供述調書

一、金在豊の大蔵事務官に対する質問顛末書四通及び検察官に対する供述調書

一、中屋実夫作成の現金売上額計算書・福山うるわし酒類現金購入調査書

一、保永嘉之の大蔵事務官に対する質問顛末書二通及び検察官に対する供述調書

一、森脇基仁の大蔵事務官に対する質問顛末書及び検察官に対する供述調書

一、菅谷剛作成の上申書及び同人の大蔵事務官に対する質問顛末書

一、波多野良昭作成の証明書二通

一、渡部民雄・西岡康爾の検察官に対する各供述調書

一、山本方人・小山岩太作成の各上申書

一、原田耕太・森信義作成の各証明書

一、松本歳江の大蔵事務官に対する質問顛末書

一、中屋実夫作成の脱税額計算書証明資料

一、第六回公判調書中の証人中屋実夫の供述部分

一、第八回公判調書中の証人小山岩太の供述部分

一、証人小橋正志の当公判廷における供述

一、小橋正志の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、岡田隆明作成の調査事績報告書

一、被告人吉本忠男作成の昭和四四年六月一二日付・七月一日付・六月一二日付・昭和四五年五月二八日付上申書

一、同被告人の大蔵事務官に対する質問顛末書一七通(昭和四五年一月二二日付・同月二三日付を除く)

一、同被告人の検察官に対する供述調書

一、押収にかかる元帳(昭和四五年押第一六〇号の一四・一五)、総勘定元帳(同押号の一六・一七)、元帳(同押号の二〇・二一)、決算関係書類(同押号の二二)、福山うるわし計算表、売上日計表、売上指名料明細綴、雑メモ、小型手帳五冊(同押号の二三ないし二九、三一、三二)、売掛帳四冊(同押号の三八ないし四一)、預り金帳、仮勘定(同押号の四九、五〇)、金合計表(同押号の五三)、給与合計表(同押号の五四)、福山うるわし仮払(同押号の五六)、ホステス貸付金残高表他雑(同押号の六〇)

判示第一事実について

一、石川三・渡山弘作成の各証明書

一、押収にかかる売上日計表四冊(同押号の一・二・三・八)、元帳四冊(同押号の一二・一三・一八・一九)小型手帳(同押号の三〇)、仮勘定(同押号の五一)、ホステス給与合計表(同押号の五五)、法人税決定決議書(同押号の六一)

判示第二事実について

一、押収にかかる売上日計表七冊(同押号の四ないし七・九・一〇・一一)、小型手帳(同押号の三三)、賃金合計表(同押号の五二)、預り金仮受金補助簿(同押号の五七)、申告書及び調査書類(同押号の六二)

(法令の適用)

被告人吉本について

各法人税法一五九条一項(各懲役刑選択)、刑法四五条前段・四七条本文・一〇条(判示第二の罪を重しとする)・二五条一項、刑訴法一八一条一項本文・一八二条

被告人会社について

各法人税法一六四条、刑法四五条前段・四八条二項、刑訴法一八一条一項本文・一八二条

(本件脱税額計算の根拠)

判示第一の脱税額計算の根拠は別紙(一)表のとおりであり、判示第二の脱税額計算の根拠は別紙(二)表のとおりである。

(小橋商店からの簿外仕入について)

証人小橋正志の当公判廷における供述、同人の大蔵事務官に対する質問てん末書、岡田隆明作成の調査事績報告書によれば、被告人吉本はクラブうるわしの営業のために小橋酒店(経営者小橋正志)から現金でビールの簿外仕入をなし、その経費が昭和四一年四月から昭和四二年三月までの分がビール六二四本で金一、六九四、九九〇円となり、同年四月から同年九月までの分がビール一九二本で金五二五、二六二円となることが認められ、これを必要経費と認めるのが相当であり、本件脱税額計算に関する弁護人の主張は、右の限度においてのみ正当と認められ、その余の主張は前顛各証拠に照して失当である。

よつて主文のとおり判決する

(裁判官 渡辺宏)

(一)

脱税額の計算表

〈省略〉

(二)

脱税額の計算表

〈省略〉

控訴趣意書((注)昭和51年2月13日控訴取下げ)

被告人 中国観光株式会社

同 吉本忠男

右者に対する法人税違反被告事件の控訴の趣意は次のとおりである。

昭和五〇年一一月二八日

右弁護人 横田勉

広島高等裁判所岡山支部

御中

第一、原判決は刑事訴訟法第三七九条にいう訴訟手続に法令の違反があり、その違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、原判決は、小橋商店からの簿外仕入れについて一部認めた他弁護人の主張を失当とされている。その理由とするところは、原判決の証拠の標目に中屋実夫作成の脱税額計算書証明資料を示しておること、及び本件の場合検察官から提出された書証については取調べに同意し右中屋実夫の脱税額計算を不当であるということから争つてきた経過から、弁護人の脱税額計算を認めず、中屋実夫の脱税額計算を正当と認めたということになるもので、それは推計計算の当否という性格のものであつて、経験則又は条理に適合しているかどうかが問題とされる分野である。従つて、原判決は右経験則に違反して中屋実夫の脱税額計算を採用しているもので訴訟手続に法令違反があると云わざるを得ない。それについて具体的に述べると次のとおりである。

二、最初に問題とせざるを得ないのは、中屋実夫の脱税額計算の根拠になつているものが魚井米夫の小型手帳における記載が真実であるというにあつたということであり、原判決はこれを採用しているものと考えられるからこれは採証法則違反というべきものであり、引いてはそれに基づく中屋の脱税額計算が経験則に反することは弁護人の弁論要旨第三、一、「旧うるわしの売上除外」の(一)乃至(四)で主張しているとおりであるから、いずれもこれを援用する。

三、福山うるわしの売上除外については、中屋の計算によると除外額の客単価が公表額より高くなつていることが経験則に反すること、魚井メモが不正確であつて、それをそのまま採用すると不合理な結果になることを弁論要旨第三、二、「福山うるわしの売上除外」で主張しており、それらが経験則違反というべきであるからそれを援用する。

四、ホステスのBコース(固定給ホステス)指名料については、中屋事務官の推計計算が現場におけるBコース指名料の取扱いを十分調査、検討せずして安易な判断のもとに算出しており、それは合理的な経験則ないし帰納推理過程を外しているものと云わざるを得ないものであり、これについての弁護人の主張は弁論要旨第三、三「ホステスのBコース(固定給ホステス)指名料」にあるとおりであるからこれを援用する。

五、簿外仕入れについては、旧うるわしの小橋商店からの簿外仕入れのみ原判決で認められているが、これも弁護人の主張どおりではなく証拠として提出した請求書を前提としての最小限度のものと云い得るもので、中屋事務官の脱税額計算に拘束され、いかに合理的な帰納推理の範囲を狭められているかが推測できる。

これ以外の「福山うるわし」ならびに「岡山うるわし」のビール簿外仕入れについて全く認められていないことは、旧うるわしと同じ形態であり、その差は偶々請求書などの証拠資料が提出できなかつたというに過ぎないのに、それを顧慮することなく否定し、且つ客一人当りのビール消費本数という合理的根拠を基礎に経験則を適用し適正な推計計算をすべきであつたのに拘らず、これを採用していないもので違法である。

これらについての弁護人の主張は弁論要旨第三、四「簿外仕入れについて」、(二)、(三)で述べているとおりであるからこれを援用する。

第二、原判決は明らかに判決に影響を及ばす事実の誤認がある。原判決は、小橋商店からの簿外仕入れについてのみ被告人らの被告人らの主張を一部認め、それ以外の被告人の陳述する売上除外金ならびに簿外仕入との差額につき認めていないが、これは既に主張したとおり経験則に違反して認定した結果間違つた事実認定をなしたものといえるものである。しかして、経験則なるものが裁判官の自由心証による帰納推理過程の基盤に外ならないもので、その場合は採証法則違反というより自由心証の濫用というべきもので事実誤認の問題であるとするならば、原判決は事実誤認を犯しているといえる。

事実誤認の内容については、その大半を右訴訟手続の法令違反に対する理由で述べているが、それは弁護人の弁論要旨の第四、「情状」を除いた部分で主張しているとおりであるからこれをすべて援用する。

第三、原判決の刑の量定は不当である。

右訴訟手続の法令違反及び事実誤認を前提に判断する場合、被告人らに対する刑の量定は不当に重きに失する。

以上

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